Japanese Association of Family Therapy
一般社団法人 日本家族療法学会

システム論からみたコロナ禍の世界

 新型コロナウィルスのパンデミック感染は、バイオサイコソーシャルな次元での世界的驚異になっている。未知のウィルスが私達の住むシステムの階層全てに影響を与えている。上位システムから下位システムまで、国、地域、家族、個人、個人の身体と心理状態へと影響している。システムの種類への影響も多様である。経済システム、教育システム、医療システム、交流システムのすべてに変化が強いられている。ウィルスは容易にシステムの「境界」を縦横に飛び越え蔓延するのが特徴である。南アフリカで発見されたオミクロン株は3ヶ月で世界中に拡散した。
 3年目に入ったコロナ禍の世界から私達は何を学んでいるのだろうか。
 多くの人が感じているのは、人間は国家、民族、政治、思想の違いを超えたホモ・サピエンスという「種」にすぎないということである。
 目に見えないウィルスは生態系の一部であり、それは国家の境界を越えた上位システムである。人間は自らが上位システムであるかのように錯覚し振るまい生態系を破壊してきた。人間はあたかも上位システムで天下を取ったかのような勢いで「より早く」「より快適に」「より多く」と文明だけは進化した。先人達が述べているのように私達内面の下位システムである「欲望」「衝動」「感情」をコントロールする自我機能は2000年の歴史において少しも進歩していない。槍が核兵器に変わり、たいまつの火が電気に変わっただけである。アナログからデジタル化は反応だけを早め、「待つ」という機能は退化している。
 この知性を持った貪欲なホモ・サピエンスが地球温暖化と生態系の破壊を防ぐことは困難であろう。
 この状況で家族療法家として私達が学ぶべきことに何があるのだろうか。
 コロナウイルスは生態システム全体の一部であり、それに対峙するための全体システムを見る視点だけは維持したい。家族療法家が「患者」「問題」「原因」を家族の中に探して治療を目指すのではなく、家族システム全体や「関係性」の在り方に焦点を当てるように、新型コロナウィルスのパンデミックは、誰かが悪い、どこかの国が悪いと考えるのではなく、考えるべきことは、上位システムの影響、人間間のコミュニケーションと関係性、そして境界の制御の在り方である。
 ペシミスティックな思いも私達の内部からやってくるのだが、それに身を置けば暗くなるばかりである。オプティミスティックに考えようではないか。
 パンデミックが終わった時、世界は一つの家族としての一体感や連帯感が以前よりも高まっているに違いない。そして、ホモ・サピエンスとして自然界の中のパーツしか過ぎないと誰もが思うようになっているはずだ。

災害支援委員会 渡辺俊之(2022年1月)

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