Japanese Association of Family Therapy
一般社団法人 日本家族療法学会

会長挨拶

第12代会長に就任して

 本学会は、2018年1月22日、渡辺俊之前会長のもと長年の懸案であった「法人化」を実現し「一般社団法人 日本家族療法学会」として再スタートしました。2020年秋より本学会初の立候補制による役員選挙を実施し、2021年度からの新代議員23名およびその内から新理事13名が選任されました。さらに理事による選挙の結果、私が会長候補として選出され、2021年6月27日の新代議員会において正式に第12代会長として承認されました。そして、副会長には、長年、本学会の国際交流事業に尽力してこられている田村毅理事に引き受けていただくことになりました。

 私が初めて家族療法に出会ったのは、私がまだ大学院で臨床心理学を学び始めた頃で、ほんのきっかけから本学会の前身である「関東家族病理・家族療法研究会」に参加しました。そこで目の当たりにした家族合同や複数治療者による面接方法、治療的コミュニケーションの技法などの臨床実践の方法はとにかく新鮮でした。しかし、それにも増して家族療法の何たるかを教えてくれたのは、リン・ホフマン(1981)の「家族療法は単なる新種の治療技法という以上のものであり、人間の行動と対人相互作用についての影響力の大きな新仮説に基づいている」という一節でした。その新仮説とは他でもないシステミックな考え方でした。こうして私は、1984年に本学会が設立されると同時に会員になったわけですが、それ以来、今は亡き諸先輩方からのご指導、多くの優れた同輩たちとの交流にも恵まれて、家族療法をベースにした心理臨床家として何とかここまでやってくることができました。

 私の心療内科を中心とした心理臨床実践においてまず勉強になったのは、“家族に問題あるから家族療法を行う”といういかにも正しい見方自体が、かえって家族関係をさらに悪化させかねないこと、家族療法イコール家族面接では決してなく、ケースによっては家族面接をしない方がよいと判断されることもあるということでした。また、たとえ個人面接だけであっても家族療法の考え方に基づけば、それはよりあらたな展開を見せること、逆に、家族面接だけでクライエント個人の問題が解決に向かうことも十分にあり得るという経験でした。加えて、ジェノグラムによる家族の多世代にわたる過去の歴史を家族とセラピストの協働作業によって明らかにしていくプロセス、一方、解決志向アプローチがもたらした未来に向けての独自の質問法は、いずれも私たちをエンパワーするもう一つの時間のありようを教えてくれました。そして今や家族療法は、社会構成主義というさらなる“新仮説”のもと、リフレクティング・プロセス、ナラティヴ・アプローチそしてオープン・ダイアローグへとあらたな展開も見せてきています。

 さて、本学会の最大の特徴は、何といっても多職種によって構成されているという点にあります。これは他の多くの関連学会と比較しても類を見ません。その最大の理由は、すでに申し上げてきたことでもありますが、家族療法の考え方と実践方法がどのような対象や領域においてもすぐれて適用可能性をもったものだからです。昨今、さかんに多職種の連携あるいは協働の重要性が叫ばれてはいますが、家族療法は当初からそのためのモデルを有していました。ですから、学会活動においても普段から多職種間の対話はごく当たり前のことなのです。そのおかげで、この私も、自身の臨床実践ではごく自然に他の専門職との連携を身につけることができました。各々の対人援助職がより専門職として制度化されている現状にあっては、家族療法が培ってきた多職種連携のモデルをもっと活かすことができるはずです。

 このように、家族療法モデルは医療、看護、教育、福祉、司法・矯正、産業、地域等どの領域の対人援助職にとってもお互いが協力し合いながら、様々な問題を抱えておられる個人、家族そして関係者の方々に大いにお役に立てるものなのです。事実、今日の日本社会における特に家族が置かれている様々な困難な状況からすればなおさらです。ところが、残念なことに、家族療法というと相変わらず特殊で難しいといったイメージがあるようです。たしかに、これまたリン・ホフマンの“新仮説”という言葉からしても、対人援助に関する一般的な社会的通念と制度のもとではどこか馴染めないものがあるのかもしれません。そうだとすれば、家族療法モデルが有する独自性を失うことなくより馴染みのあるものにしていくことは、これからの本学会に課せられた一つの大きな課題ではないかと思われます。

 以上、申し上げてきましたように、私は、会長として家族療法モデルのさらなる臨床研究と普及のために法人化された本学会のさらなる組織運営の活性化に向けて微力ながら力を尽くしてまいる所存です。 最後になりましたが、渡辺俊之前会長のこれまでのご尽力に心からの慰労と感謝を申し上げます。

 よろしくお願いいたします。

児島達美 KPCL(Kojima Psycho-Consultation Laboratory)

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