Japanese Association of Family Therapy
一般社団法人 日本家族療法学会

非行・犯罪臨床からみたコロナ禍と家族

 少年人口の減少に伴う「少年非行」はもとより,「成人犯罪」についても平成15年以降一貫して減少しており,警察白書では「戦後最少を更新した」という表現が繰り返されている。新型コロナ感染症の流行が始まった令和2年(前年比17.9%減)と比べても令和3年(同7.5%減)では減少幅は小さくなっているとはいえ,犯罪情勢に変わりはない。
 これでは,関係官庁の予算獲得もままならないからではないだろうが,最新の犯罪白書でもオレオレ詐欺などの特殊詐欺を取り上げ特集している。新型コロナ関連では,欠乏していたマスク注文詐欺に始まり,各種の給付金をだまし取る事案が急増し,若手のキャリア官僚による事件は社会の耳目を集め糾弾された(当然至極である)。
“非行・犯罪の専門家で家族関係にも詳しい”と称されている私のもとへは,「オレオレ詐欺では,なぜ簡単に家族は騙されるのか?」といった取材が集中した。加害者がシナリオ・ロールプレイを“活用”して詐欺術を修得する様は,心理職として腹立たしい限りだが,確かに「被害者が当該の親族に確認すると詐欺であることが分かり警察に通報した」といった類いの報道が大半である。
 全くの私説だが,「諸事情から疎遠であった子どもや孫の役に立っている」という思いが,“騙されているのでは?” という不安を凌駕しているのではないか。事件として発覚後,親族から「そんなにお金を貯め込んでいたのか」と非難されることもあるようだが,大方の親族は“放置していた”ことを反省し,関係機関を含めたアプローチ:声かけが始まり,孤立状況の改善につながっているようである。
 単身赴任が長期・常態化している私も留守宅に戻ることができない,いや,する必要もないことが明らかとなり,これは家族臨床家とはいかがなものか,「家族とのコミュニケーションの量は減ったが質が問題である」と逃げ口上でお許しいただきたい。

災害支援委員会 生島 浩(福島大学:2022年2月)

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